奥さんと外国映画を見ながら、ときどき「踊りのある文化っていいよね」と話す。
音楽が流れてくると自然に体が動くような文化圏の人々に憧れる。そういう文化圏の人たちは、他人の目など気にせずに、実に楽しそうに踊るのだ。
また、ダンスは男女が近づくための重要なきっかけでもある。それほど親密ではない異性とボディタッチを交えながら共同作業するというハードルの高い行為に「文化ですから」と絶妙な言い訳を与えてくれる。
アメリカのプロムなんて、文句なしのリア充青春イベントだ(弱者男性にとっては地獄らしい)。そんな青春を送ってみたかった、と思う私は男子校出身である。まあとにかく現代日本人は踊らない。ダンスの文化があれば少子化も少しは改善していたかもしれないと思う。
そんなことを以前から思っていたのだけれど、結局、私が体験してみることにしたのは、男女の親密さを深める社交ダンスではなく、ヒップホップダンスだった。たまたま市民講座に空きがあったからというのが主な理由だが、西洋音楽よりブラックミュージックが好きな私にはうってつけだろう。大人のためのヒップホップダンス講座初級編。中年が社交ダンスでは、いかにもおっさんという感じがして面白くない。奥さんも興味を持ってくれたので夫婦で参加となった。
一番の懸念はコロナ禍のリモートワークで大幅に低下した体力だ。筋力が衰えて体重を支えられないと関節に負担がかかる。特に膝が怖い。関節をやられたらますます運動ができなくなってしまう。それだけは何としても避けねばならない。
NIKE AIR MAX SC を購入。
慎重を期すべく、クッション性の高いナイキのエアマックスを購入した。話はまた脇道にそれるが、私が高校生の頃、エアマックス95が人気を博し「エアマックス狩り」という事件がしばしば起こった。また同じ頃、「オヤジ狩り」という強盗事件も世間を騒がせていた。さて今の私はどうだろう。完全に「エアマックスを履いたオヤジ」である。あの時代にタイムリープしたら生きて帰ってこれないかもしれない。
そんなくだらないことを考えながら、初講習に臨んだ。会場は市の音楽施設のスタジオである。
で、まあこの手の講座あるあるなのだが、会場に着いてみると講師の方も参加者は私以外全員女性だった。男は私一人。前に公園でヨガを体験するイベントもそうだったな。奥さんがいなきゃ怖くて泣いていたところだ。とはいえ、いかにもなB-GIRLは皆無で、普通にその辺で見かけるような20-30代の女性たち。あと私よりかなり年上っぽいレディが一名。
講座の内容は、準備運動 → 体の部位を独立して動かす「アイソレーション」というトレーニング → 課題曲の振り付けを8小節ほど練習という流れになっていた。スタジオの鏡張りの壁に向かいながら、常に音楽をガンガンに鳴らしてリズムに合わせて講師の動きを真似るだけ、という緩めの内容。
が、最初の準備運動で早くも体力が限界を迎えてしまった。というか準備運動が一番キツかった。ヨガに似たストレッチ中心の運動だったが、すっかり関節の可動域が狭くなっているので、足が開かない。さらに時折挟まれるスクワットに似た動きがしんどい。スリムで体の柔らかい女性たちの中で、私だけ完全に浮いていた。辛いわ恥ずかしいわで、泣き笑いみたいな表情を浮かべ運動を終える頃には、足腰が生まれたての子鹿みたいになっていた。
アイソレーションや振り付け練習は結構楽しかった。振り付けを覚えるのは早かったほうだと思う(中学の頃、ダンス甲子園視てたし )だが、すでに体力が限界を迎えていたので、思ったとおりに動くことができない。どの動きをしたらいいのかわかるんだけど、実行に移したら膝や脹脛が死ぬのがわかっているので実行できない、みたいな具合だった。体力が戻ったらいけそうな気はする。
翌日は案の定腿を中心とした筋肉痛に夫婦で悩まされた。初回はそんな感じでした。